経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会
第26(特別)会期
2001年8月13日-31日


規約第16条及び第17条に基づく締約国により提出された報告の審査

経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の最終見解(外務省仮訳)

2001年9月24日


日本

1.経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の実施に関する日本の第2回定期報告(E/1990/6/Add.21)を、2001年8月21日に開催された第42回及び第43回会合において審査し、2001年8月30日に開催された第56回会合において以下の最終見解を採択した。

A.序論

2.委員会は、全般的に委員会のガイドラインに沿った締約国の第2回定期報告を歓迎する。委員会は、規約に関連する問題の専門家で構成された代表団との率直かつ建設的な対話、及び委員会が提起した質問に対して代表団が快く回答したことを歓迎する。

B.肯定的要素

3.委員会は、締約国が世界第2位の経済力を持つ、世界の中で最も発展した国のひとつに位置づけられており(UNDPの人間開発指数第9位)、大多数の国民が経済的、社会的及び文化的権利を高水準で享受していることに留意する。

4.委員会は、また、締約国が絶対額において世界最大の援助国であり、GNPの0.27%を政府開発援助(ODA)に割り当て、そのうちの40%が規約に含まれる権利に関連した分野向けであることに留意する。

5.委員会は、国連やOECDといった国際的なフォーラムに関連して、経済的、社会的及び文化的権利の推進に関する国際協力の促進における締約国の重要な役割を認識する。

6.委員会は、締約国が報告の準備に自国のNGOを関与させ始めたことを好意的に留意する。

7.委員会は、締約国が男女共同参画の推進のための措置を採っていること、及び2000年に男女共同参画基本計画を策定したことに留意する。

8.委員会は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(1999年)、ストーカー行為等の規制等に関する法律(2000年)、児童虐待の防止等に関する法律(2000年)、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(2001年)など、暴力からの女性と児童の保護を改善させるための、締約国の最近の施策を歓迎する。また、委員会は、児童虐待及び性的犯罪の被害者を保護するための刑事手続法の改正(2001年)、児童の商業的性的搾取に反対する国内行動計画の策定(2001年)を歓迎する。

9.委員会は、締約国が1995年の阪神・淡路大震災後の対処に相当の努力を払い、また、莫大な数の被災者のために、国、府県及び市町の当局が仮設住宅及び恒久住宅建設に素早く対応したことに留意する。

C.主な懸念される問題

10.委員会は、締約国が、規約の規定の多くが憲法に反映されている事実があるにもかかわらず、国内法において規約の規定に対し、満足のいく方法で効力を与えていないことに懸念を有する。委員会は、立法及び政策形成過程において、規約の規定が十分に考慮されておらず、また、立法上及び行政上の計画、また国会での議論において、規約の規定がほとんど言及されないことについても懸念を有する。委員会は、さらに、規約の規定に直接的効力を持つものはないとの誤った根拠に基づき、司法の決定が、一般的に規約に言及していない事実があることについて懸念を表明する。締約国がこの立場を支持することにより規約上の義務に違反していることは、さらなる懸念事項である。

11.委員会は、締約国の規約第7条(d)、第8条2項、第13条2項(b)及び(c)への留保に関し、委員会が受け取った情報によれば、それらの権利の完全な実現はまだ保障されていないことが示されている一方、締約国が前述の条項で保障された権利をかなりの程度実現しているという理由に基づいて、留保を撤回する意図がないことに特に懸念を表明する。
(外務省注:第8条について留保しているのは、第2項ではなく第1項(d)である。)

12.委員会は、締約国が非差別原則を漸進的に実現すべきであり、「合理的」あるいは「合理的で正当と認められる」例外がある問題であると解釈していることに懸念を有する。

13.委員会は、日本社会において、少数者集団、とりわけ部落及び沖縄コミュニティー、先住性のあるアイヌの人々、並びに在日韓国・朝鮮の人々に対する、特に雇用、住宅及び教育の分野で法律上及び事実上の差別が存続していることに懸念を有する。

14.委員会は、また、婚外子に対する法的、社会的及び制度的差別が存続していることについて、特に相続及び国籍に関する権利が制限されていることに関し、懸念を有する。

15.委員会は、日本社会において、議会、公務部門、行政、及び民間部門における、専門的及び政策決定地位においての広汎な女性差別、及び男女の間に依然存在する事実上の不平等について懸念を表明する。

16.委員会は、2001年に国内法が制定されたにもかかわらず、家庭内暴力、セクシュアル・ハラスメント及び児童の性的搾取の事例が引き続き存在することに懸念を表明する。

17.委員会は、また、男女の間に同一価値の労働に対する賃金に事実上の不平等が依然として存在すること、特に、多くの企業では、主として専門的な要職に昇進する機会がほとんどあるいは全くない事務員として女性を雇う慣行が続いていることについても懸念を有する。これらの不平等は、1997年の男女雇用機会均等法改正のような締約国によってとられた立法上、行政上、及びその他の措置にもかかわらず残存している。

18.委員会は、締約国が、1957年の強制労働の廃止に関する条約(105号)、1958年の雇用及び職業についての差別待遇に関する条約、(111号)、1989年の原住民及び種族民に関する条約(169号)のようないくつかの重要なILO条約を批准していないことにつき懸念を有する。

19.委員会は、締約国が公的部門及び私的部門の両方での、過大な労働時間を容認していることに重大な懸念を表明する。

20.委員会は、労働者は45歳以降、十分な補償なしに、給与を削減され、あるいは解雇される恐れがあることに懸念を表明する。

21.委員会は、全ての公務員について、教師を含め、不可欠な政府の業務に従事していない公務員についてまで、ストライキを全面的に禁止していることについて懸念を有する。これは、(締約国は留保しているが)、=規約の第8条2項に違反し、また、人事に関する委員会による代償措置があるにもかかわらず、結社の自由と団結権の保護に関するILO87号条約に違反する。
(外務省注:第8条について留保しているのは、第2項ではなく第1項(d)である。)

22.委員会は、報告された原子力発電所事故、及び当該施設の安全性に関する必要な情報の透明性及び公開が欠如していることに懸念を有するとともに、原子力事故の予防及び処理のための、全国規模及び地域社会での事前の備えが欠如していることに懸念を有する。

23.委員会は、また、受給適格年齢が60歳から65歳に段階的に引き上げられることを内容とする公的年金制度に関する最近の改革の結果に懸念を有する。退職年齢と公的年金の受給適格年齢が一致しない場合、65歳より前に退職を余儀なくされる者については収入の損失が生じ得る。

24.委員会は、最低年金制度が存在しないこと及び男女間の収入格差を永続化させる年金制度における事実上の男女不平等が存続していることについて、さらに懸念を有する。

25.委員会は、障害者に対して、特に労働及び社会保障の権利に関連して、法律上及び慣習上の差別が依然として存在することについて懸念をもって留意する。

26.委員会は、主として民間の財源から資金が調達されている、アジア女性基金により「従軍慰安婦」へ提供された補償が、当該慰安婦によって受け入れられる措置とはみなされてきていないことに懸念を表明する。

27.委員会は、阪神・淡路大震災後に兵庫県により計画し実行された、大規模な再定住計画にもかかわらず、最も震災の影響を被った人々が必ずしも十分に協議を受けず、その結果、多くの独居老人が、個人的注意がほとんどあるいは全く払われることなく、全く慣れない環境に起居していることに懸念を有する。家族を失った人々への精神医学的又は心理学的な治療がほとんどあるいは全くされていないようである。多くの再定住した60歳を越える被災者には、地域センターがなく、保健所や外来看護施設へのアクセスを有していない。

28.委員会は、阪神・淡路地域の被災者のうち、貧困層にとっては、自らの住宅再建資金の調達がますます困難になっていることに懸念をもって留意する。これらの者の中には、残余の住宅ローンの支払いのために、住宅を再建し得ないまま財産の売却を余儀なくされた人々もいる。

29.委員会は、全国に、特に大阪の釜ヶ崎地区に、多数のホームレスの人々がいることに懸念を有する。委員会は、締約国がホームレスを解消するための包括的な計画を策定していないことにさらに懸念を有する。

30.委員会は、強制立ち退き、とりわけ仮の住まいからのホームレスの強制立ち退き、及びウトロ地区において長い間住居を占有してきた人々の強制立ち退きに懸念を有する。この点に関し、委員会は、特に、仮処分命令発令手続においては、仮の立ち退き命令が、何ら理由を付すことなく、執行停止に服することもなく、発令されることとされており、このため、一般的性格を有する意見4及び7に確立された委員会のガイドラインに反して、あらゆる不服申し立ての権利は無意味なものとなり、事実上、仮の立ち退き命令が恒久的なものとなっていることから、このような略式の手続について懸念を有する。

31.委員会は、全ての段階における教育がしばしば過度に競争的でストレスの多い性格のものになっていることから、生徒の不登校、病気及び自殺さえも招来していることに懸念を有する。

32.委員会は、少数者の児童が、公立学校において、母国語による、自らの文化についての教育を享受する機会が極めて限られている事実について懸念を表明する。委員会は、少数者の学校−例えば在日韓国・朝鮮の人々の民族学校などが、たとえそれが国の教育課程に沿うものであっても、公的に認められず、それゆえ、中央政府の補助金も受けられず、大学入学試験受験資格も与えられない事実についても懸念を有する。

E.提言及び勧告

33.委員会は、締約国が規約の下で生じる法的義務に対する立場を見直すこと、そして、少なくとも中核的義務に関しては、一般的な性格を有する意見13及び14も含め、委員会の一般的な性格を有する意見において概説されているように、規約の規定が実際上、直接適用可能なものとして解釈されることを要求する。さらに、立法上及び行政上の政策並びに意思決定の過程において、規約の規定が考慮されることを確保するため、締約国が環境影響評価に匹敵する、「人権影響評価」及びその他の措置を導入することを勧奨する。

34.委員会は、締約国に対し、規約第7条(d)、第8条2項、並びに第13条2項(b)及び(c)への留保の撤回を検討することを要求する。
(外務省注:第8条について留保しているのは、第2項ではなく第1項(d)である。)

35.委員会は、また、締約国に対し、規約についての理解、意識の向上及び規約のより良き適用を促進するため、裁判官、検察官及び弁護士のための人権についての教育及び研修プログラムを改善することを勧告する。

36.経済的、社会的及び文化的権利の促進及び保護のために締約国によりとられた措置を評価する一方、委員会は、締約国に対し、開かれた協議プロセスを通じ、ウイーン宣言及び行動計画の第II部のパラ71に従って、包括的な国内行動計画を作成することを要求する。委員会は、締約国に対し、第3回報告に国内行動計画の写しを別添し、同計画がどのように経済的、社会的及び文化的権利を促進し、保護しているかを説明することを要請する。

37.委員会は、締約国に対し、途上国への国際援助を提供するためにさらに努力し、国連によって設定されたGNPの0.7%という国際的に受け入れられた目標を達成する時間的計画を設定することを要求する。委員会は、また、締約国に対し、国際金融機関、とりわけIMF及び世界銀行の一構成メンバーとして、それらの機関の政策及び決定が締約国の規約上の義務、特に国際援助及び協力に関する第2条1項、第11条、第15条、第22条、及び第23条の義務に合致することを確保するために、できる限りのことをすることを勧奨する。

38.委員会は、締約国が国内人権機構を設立する意図を示していることを歓迎すると同時に、1991年のパリ原則と委員会の一般的な性格を有する意見10に従ってできる限り早く設立することを要求する。

40.委員会は、締約国に対し、規約第2条2項の非差別原則は、客観的基準に基づく区別でない限りは絶対的な原則であり、例外は存在しないという委員会の立場に留意することを要請する。委員会は、これに従って締約国が非差別立法を強化することを強く勧告する。

41.締約国が現在、ウトロ地区に住む在日韓国・朝鮮の人々と協議中であるということに留意する一方、未解決の状況を考慮し、委員会は、締約国に対し、部落の人々、沖縄の人々、先住性のあるアイヌの人々を含む日本社会におけるすべての少数者集団に対する、法律上及び事実上の差別、特に雇用、住宅及び教育の分野における差別をなくすために、引き続き必要な措置をとることを勧告する。

42.委員会は、締約国に対し、現代社会では受け入れ難い「非嫡出子」という概念を立法及び慣習から取り除き、婚外子に対するあらゆる差別をなくすための立法上及び行政上の措置を早急にとり、さらに、損なわれた個人の規約上の権利(規約第2条及び第10条)を回復させることを要求する。

43.委員会は、締約国に対し、特に雇用、労働条件、賃金、並びに議会、公務部門及び行政府におけるより高いポストへの就任において、更なる男女平等を確保するため、現存の法律をより精力的に履行し、適切な男女平等の観点から新規立法を行うことを要求する。

44.委員会は、締約国に対し、家庭内暴力、セクシュアル・ハラスメント、児童の性的搾取の事例に関する詳細な情報及び統計データを提供することを勧告する。また、委員会は締約国に対し、国内法を厳格に適用し、そのような犯罪の責任を有する者に対し効果的な制裁を実施することを勧告する。

45.委員会は、締約国に対し、男女雇用機会均等法などの現存の法律、並びにILOによって言及された職業的進路により異なる雇用管理に関するガイドラインのような関連の行政、その他のプログラム及び政策をより積極的に実施し、また、そうした内容の適切な新しい措置を採用することにより、同一価値労働に対する賃金に関して事実上の格差が男女間に存在する問題に引き続き取り組むことを強く勧告する。

46.委員会は、締約国が、ILO105号条約、111号条約、及び169号条約を批准することを勧奨する。

47.委員会は、締約国が、公的部門及び私的部門の双方において、労働時間を削減するために必要な立法上及び行政上の措置をとることを勧告する。

48.委員会は、締約国に対し、45歳をこえる労働者が元の給与水準及び雇用の安定を維持することを確保するための措置をとることを勧告する。

49.委員会は、締約国が、ILOに従って、不可欠な業務に従事していない公務員のストライキを行う権利を保障することを勧告する。

50.委員会は、原子力施設の安全性に関連する問題に関し、周辺住民に対して、全ての必要な情報の透明性及び公開性を促進することを勧告する。さらに、締約国に対し、原子力事故の予防及び事故が起きた際の迅速な対応のための準備計画を策定することを要求する。

51.委員会は、公的年金制度の受給適格年齢が60歳から65歳に段階的に引き上げられることから、締約国が、65歳以前に退職する者のために、社会保障の利益を保証する措置を講じることを勧告する。

52.委員会は、締約国が最低年金を公的年金制度に導入することを勧告する。さらに、委員会は、年金制度に存続する事実上の男女不平等が最大限可能な限り改善されることを勧告する。

53.委員会は、締約国が法令における差別的な規定を廃止し、障害者に関連するあらゆる種類の差別を禁止する法律を制定することを勧告する。さらに、委員会は、締約国が、公的部門における障害者法定雇用率の実施における進展を継続し、かつ早めることを要求する。

54.委員会は、遅きに失する前に、「慰安婦」の期待に添うような方法で犠牲者に対して補償を行うための手段に関し、締約国が「慰安婦」を代表する組織と協議し、適切な調整方法を見い出すことを強く勧告する。

55.委員会は、締約国が兵庫県に対し、とりわけ高齢者及び障害者への地域サービスの向上及び拡大を勧奨することを勧告する。

56.委員会は、貧しい被災者が、住宅ローンの支払いを続けるために財産を売却せざるを得なくなることを防ぐために、それらの者が破壊された住宅を再建するために公的住宅基金あるいは銀行に対する債務の支払いを支援するため、締約国が規約第11条の義務に従って、効果的な措置を迅速にとることを勧告する。

57.委員会は、締約国が自ら、そして都道府県と共同で、日本におけるホームレスの範囲及び原因を判定する調査を実施することを要求する。また、締約国は、ホームレスの人々の相当な生活水準を確保すべく、生活保護法のような既存の法律を十分に適用することを確保するために適切な措置をとるべきである。

58.委員会は、締約国があらゆる立ち退き命令、とりわけ仮処分命令発令手続が、一般的な性格を有する意見4及び7において委員会が明示したガイドラインに従うことを確保するために救済的な行動をとることを勧告する。

59.委員会は、締約国が、委員会の一般的な性格を有する意見11及び13、並びに、児童の権利に関する委員会の一般的な性格を有する意見1を考慮し、教育システムの包括的見直しを行うことを強く勧告する。この見直しは、全ての段階における教育がしばしば過度に競争的でストレスの多い性格のものになっていることから、生徒の不登校、病気及び自殺さえも招来していることに、特に焦点をおくべきである。

60.委員会は、締約国に対し、学校教科書及びその他の教材が、規約第13条1項、委員会の一般的な性格を有する意見13、及び児童の権利に関する委員会の一般的な性格を有する意見1で提示されているような教育の目的及び目標を反映するように、公正かつ均衡のとれた形で問題を記述することを確保するよう要求する。

61.委員会は、かなりの数の言語的少数者の児童生徒が在籍している公立学校の公式な教育課程において母国語教育が導入されることを強く勧告する。さらに委員会は、それが国の教育課程に従うものであるときは、締約国が少数者の学校、特に在日韓国・朝鮮の人々の民族学校を公式に認め、それにより、これらの学校が補助金その他の財政的援助を受けられるようにし、また、これらの学校の卒業資格を大学入学試験受験資格として認めることを勧告する。

62.委員会は、締約国に対し、対話の中で十分に扱われなかった次の問題即ち、不法就労者及び研修生を含む外国人の、公正かつ良好な労働条件、社会保障及び医療サービスに対する権利、並びに患者の権利について、次回の定期報告において、より広範な情報を提供することを要請する。

63.委員会は、締約国に対し、社会の全ての層に最終見解を広く配布し、それらの実施のためにとったすべての措置について委員会に報告することを勧告する。また、委員会は、締約国に対し、第3回報告作成準備の早い段階において、NGO及び他の市民社会の構成員と協議することを勧奨する。

64.最後に、委員会は、締約国に対し、第3回報告を2006年6月30日までに提出し、その報告の中に、この最終見解に含まれている勧告を実施するためにとった手段についての、詳細な情報を含めることを要請する。

(外務省注:訳文中の「締約国」は、日本を指す。)