2009年度公務労協情報 6 2008年11月17日
公務公共サービス労働組合協議会

顧問会議が内閣人事局WG報告を担当大臣に提出 −11/14
−試験、任免、給与、研修などの企画立案を人事院から移管し、代償機能を形骸化−

 国家公務員制度改革推進本部の顧問会議(座長:御手洗冨士夫日本経団連会長)は、14日夜、第4回会議を開いて、内閣人事局の機能や組織に関わるワーキンググループ(主査:桜井正光経済同友会代表幹事)(以下、「WG」という。)の「論点整理に関する報告」について審議し、甘利行革担当大臣に提出した。
 その内容は、内閣人事局が「国家公務員全体の人事管理に関する制度及びその運用の全般について、Plan機能(企画立案、方針決定、基準策定、目標設定等)とAct機能(制度や運用の改善・改革)を担う」こととし、「労働基本権制約の下では、(中略)勤務条件について内閣人事局がPlan機能を担い、例えば、勤務条件の細目についても法律に基づき内閣人事局が政令で定め、人事院がこれに対して意見申出を行うような仕組みや内閣人事局があるべき勤務条件について基本的な企画立案を行い、人事院に対して必要な検討、勧告・意見申出を行うよう求めるような仕組み」とすることを求めている。
 WGは、内閣人事局を新たに設置するに当たって、国家公務員制度改革基本法の趣旨を具体化するためには、どのような機能と組織が必要かについて「論点整理」を行うことを求められていたが、スケジュールありきの拙速な審議を行い、基本法が求める割拠主義打破による「幹部職員等の一元管理」を名目として、労働基本権制約の下において、第三者機関である人事院の権限を形骸化し、使用者の権限を一挙に拡大することを報告している。労働基本権の付与については、別に設置されている「労使関係制度検討委員会」(座長:今野浩一郎学習院大学経済学部教授)で検討することとてされており、そこで結論を得る前に使用者側の人事管理権限を強化することは、労働基本権制約の代償措置との関係で受け入れられないものである。
 WGの審議には、連合を代表して草野連合総研理事長が委員として参加し、割拠主義の打破などを訴えるとともに、給与制度等について企画立案を行うことは代償機能そのものであることから、内閣人事局の権限としないことを主張してきたが、取り入れられなかったものである。また、顧問会議には、高木連合会長が、別紙の通り、意見書を提出し、@使用者である内閣人事局が企画立案等を所管または関与することは、断じて許されないこと、A公正・中立性を確保する機能を内閣人事局に移管することは、行政の継続性及び安定性、公正性と中立性に影響を及ぼすこと、B幹部職員の人事については、入口選別主義に基づくキャリア制度を廃止し、評価制度に基づく真に公正・中立な人事システムを構築すること、C内閣人事局が担うべき機能や役割等については、顧問全員が参加する機会を設定し、慎重かつ十分な審議・検討の確保をはかること、などを強く訴えたが、反映されなかったものである。
 報告を受けた甘利行革担当大臣は、顧問会議の場で「持ち帰って週末考えさせていただき、総理や党にはかって、最終的に方針を決めたい」との考えを表明している。
 報告では、人事院の代償機能の形骸化のみならず、行政管理局や財務省主計局給与共済課の機能についても内閣人事局に統合することなどを求めており、政府の「最終的方針」がどうなるかは不透明である。仮に、来年度に内閣人事局を設置することになれば、年内に予算要求を取りまとめるとともに、次期通常国会で内閣法、国家公務員法、各府省設置法等の改正を行う必要があることから、推進本部事務局で具体化に向けた検討作業が行われることになる。
 このため、公務労協は連合と連携して、労働基本権制約の下で代償機能が損なわれ、使用者側の人事管理機能が一方的に強化されることを阻止するため、推進本部との交渉の強化や労使関係制度検討委員会での審議促進など、今後の対策を強めていくことにしている。


<資料>高木連合会長の意見書

「論点整理に関する報告」に対する意見

顧 問  高 木  剛


 これまでの顧問会議における議論とワーキング・グループの論点整理等を踏まえ、内閣人事局が担うべき機能や役割等について審議する第4回顧問会議を欠席するにあたり、書面により以下の意見を提出し、同会議における議論への反映を要請します。

1 職員の勤務条件に係る事項の権限については、労働基本権が制約される現行法制度において、代償措置の中核をなす人事院勧告以前の段階において、使用者である内閣人事局が企画立案等を所管または関与することは、断じて許されない。仮に人事院の意見聴取を前提とするものであっても、代償措置・機能を形骸化するものに他ならない。
 ILОにおける代償措置論は、「制度の構成、手続、実効性の確保などの点において、労働者の要求を十分にみたしうるものでなければならず、それによってはじめて基本的権利尊重の趣旨と整合性を確保しうる」(ILО結社の自由委員会第139次報告(1973年))としている。また、「日本の公務における雇用条件等を決定する現行制度が関係当事者の信頼を確保するものといえるかどうかにつき、強い疑念を表明せざるを得ない。政府はこれらの労働者が目下のところ享受していない基本権の適切な代償となるような公務における賃金および労働条件決定手続を確立し、当該労働者が雇用条件等の決定に参加できるよう強い希望を表明する」(同委員会第236次報告(1984年)、第329次報告(2002年)他)としている。
 その意味で、現行制度でさえ代償措置・機能が適切なものではないと国際的にも判断されているにもかかわらず、代償機関としての現在の人事院の機能・権限を使用者である内閣人事局に移行することは、第三者機関としての人事院に付与されている「職員の利益を保護するための権限」を阻害し、代償機能を事実上否定するものであり、到底容認できない。
 勤務条件に関わる事項についての人事院権限の移管は労使関係制度検討委員会の検討結果を踏まえて措置すべき事項である。

2 主権者たる国民のコントロールは、政治主導を強化することにより発揮されるが、同時に職業公務員の公正・中立性の確保をこれまで以上に徹底することが必要である。これは、民間企業の人事管理とは異なるものであり、国民全体の利益をはかる公務における特性として、諸外国においても外部からの圧力で歪められることのないよう制度的保障がなされている。
 公務員人事において公正・中立性を確保する機能については、憲法の「全体の奉仕者としての公務員」に由来する重要な機能であり、これを十分かつ具体的さらに専門的な検証もなく、移管することは、行政の継続性及び安定性、公正性と中立性に影響を及ぼす。基本法制定の際の国会の附帯決議をも踏まえ、拙速な対応をはかってはならない。

3 幹部職員の人事について、課題と目的は、入口選別主義に基づくキャリア制度を廃止し、評価制度に基づく真に公正・中立な人事システムを構築することにある。つまり、各省割拠主義の基盤が府省の絶対的な人事権限にあるとし、どれだけ各府省の権限を規制・排除しても、結果的に、内閣人事局のもとで、総合職試験採用〜幹部候補育成課程〜幹部というように実質的に現行のキャリア制度の運用が維持・温存されたのでは意味がない。
 幹部職員の人事制度の検討については、あくまで基本法の範囲において検討がはからなければならないことは自明のことである。つまり、幹部職員と他の職員を一つの公務員集団としている現行制度のもと、それを前提とした幹部職員に係る措置の検討であることに留意しなければならない。

4 限界を超えている格差社会からの脱却が求められている今日、新しいリスクに対応する公共サービスの重要性を認識し、それを機能させる基盤となる公務員制度改革はまさに国民的課題であり、改革の頓挫は許されない。また、国家公務員制度改革基本法が与党と民主党との間における修正協議に基づき成立した経過を踏まえ、幅広い関係者の意見聴取を行い、如何なる政権のもとでも常に安定的に機能する公務員制度を確立しなければならない。
 国家公務員制度改革基本法の主たる目的は、官僚内閣制と各省割拠主義を廃し真の意味での政治主導体制を確立すること、さらにキャリア制度を廃止し公正・中立な人事制度に改めることにあるといえる。そして、内閣人事局は、これらの目的を達成するために必要となる組織である。
 ところで、当顧問会議の任務については、「国家公務員制度改革の推進のために講ぜられる施策に係る重要事項について審議し、国家公務員制度改革推進本部長に意見を述べる」こととされている。その意味で、国民を代表する立場から施策の検討に参画しているという自覚のもと、国民が納得できる改革を提示することに留意しなければならない。
 内閣人事局が担うべき機能や役割等については、少々の検討スケジュールの遅れを改革の後退と評価されることに懸念した拙速な対応をはかるのでなく、国家公務員制度改革基本法に定められた期限のもと、顧問会議全体の合意形成に配慮すべきである。そのため、顧問全員が参加する機会を設定し、慎重かつ十分な審議・検討の確保をはかることが最低限必要である。

以上