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労働基本権確立・公務員制度改革

対策本部ニュース

No.29 2001年6月13日

連合官公部門連絡会

ILO条約勧告委で日本の公務員制度改革等を審査

日本政府は「公務員制度の具体的内容は、
職員団体と誠実に交渉・協議する」と表明



 スイスのジュネーブで開催されている第89回ILO総会の対策として、連合官公部門から派遣されている対策本部の宮入副事務局長・岩岬事務局次長は、条約勧告適用総会委員会での審査について、次のように報告してきた。
 6月12日午後5時45分(日本時間13日午前0時45分)から、日本の公務員の労働関係に関する87号条約の適用状況が審査された。
 委員会の冒頭、議長から日本政府に対し意見を求めた。
 日本政府の代表(厚生労働省)は、まず、消防職員の団結権問題について、「消防職員委員会制度を導入し、消防職員の勤務条件改善に十分機能している」とし、「この制度の円滑な運用・定着に努める」との意見を述べた。また、日本の公務員制度改革の動きについて触れ、「現時点では、改革の内容が固まっていない」として、「具体的な情報提供やコメントを行える状況になく、今後、進展状況について、適宜情報を提供したい」との考えを示した。【資料1】
 これに対し、日本の労働側代表団である井ノ口委員(自治労国際局長)は、日本政府の主張に反論、消防職員の団結権問題について、「消防職員委員会制度は設けられたものの団結権がいまだに否認されていることには変わりはない」と指摘した。政府が進めている公務員制度改革については、「労働組合と一切の交渉を行わないまま一方的に検討を進めていることは87号条約違反である」と強く批判し、次の事項について明確な見解を示すよう求めた。
@ 日本政府は現在取り組んでいる公務員制度改革について、ILO基準の達成、その実現のために最大限努力すること。
A 政府は、労使交渉に応じ、誠実に協議を尽くし、合意に努めること。
B これまで閣議決定された内容及び「大枠」は、今後の交渉を一切制約するものではないこと。【資料2】
 また、6か国の労働側代表団から日本政府の態度を批判する意見が相次いでだされた。
 これに対して日本政府の代表は、「2000年12月の閣議決定、3月27日の『大枠』ともに、制度の具体的な内容を決定するものではないことから、今後の交渉・協議を制約するものではなく」、「『基本設計』を示した後も、職員団体をはじめとする関係者と誠実に交渉・協議をしてまいりたい」との見解を表明し、「ILOに対し、適宜情報提供を行っていく」ことを約束した。【資料3】
 最後に、議長が日本政府に対し、「消防職員の団結権問題・公務員のスト権問題・公務員制度改革問題で労働側から出された意見に留意するよう」求め、とりわけ公務員制度制度改革については、「労働組合と対話するよう希望する」との意見をのべた。そして、「来年の次回総会までに、この問題で具体的措置が取られ、状況の変化がなされたという報告が行えるよう希望する」と締めくくり、日本問題の審議を終えた。

 審議終了後、12日午後7時30分(日本時間13日午前2時30分)から、連合代表団として伊藤ILO理事(造船重機労連前委員長)が現地で記者会見を行い、委員会で表明された日本政府の見解について、@閣議決定や大枠は、公務員制度改革の具体的内容を決定したものではないこと、Aしたがって、「基本設計」後も、制度の具体的内容は、関係労働組合との交渉・協議で決定していくこと、などを約束したものとして受け止めることを内外に明らかにした。さらに、「ILOが日本の公務員の労働関係について、国際基準に沿った公務員制度改革の実現を求めていることをきわめて重く受け止め、引き続き国内において公務員の労働基本権の全面的確立と公務員制度の抜本改革に向けて全力で取り組む」との決意を表明した。
 以上のように、現在進められている公務員制度改革がILO87号条約の基本原則に反するものであり、日本政府も「公務員制度改革の具体的内容は、職員団体等との誠実な交渉・協議に基づいて進めていく」ことを国際舞台で約束せざるを得なかったものである。【資料4】

 対策本部としては、14日の石原行革担当大臣との交渉でも、これを履行させ「交渉・協議に基づいて検討すること」などを約束するよう、求めていくことにしている。
 なお、13日の衆議院内閣委員会では、民主党の中沢健次議員(自治労出身・北海道)が、ILO総会の審査結果を踏まえ、石原行革担当大臣に日本政府の考えを質すことにしている。

以 上

<12日の条約勧告適用総会委員会での発言内容及び記者会見参考資料>

資料1.日本政府の冒頭意見陳述

 議長、日本政府を代表して、本年の87号条約に係る条約勧告適用専門家委員会のオブザベーションに関連し、我々の基本的立場を説明する。

 まず、消防職員の団結権問題については、第82回ILO総会においても満足をもって歓迎された消防職員委員会制度の導入という解決策に基づき、各消防本部に消防職員委員会を設置する消防組織法の一部を改正する法律が、1995年10月20日与野党全会派一致で成立し、1996年10月1日から施行された。
 消防職員委員会は消防職員の勤務条件等に関して消防職員から提出された意見を審議し、その結果に基づき消防長に対して意見を述べることを役割とするものであり、1997年4月1日までに全ての消防本部(当時923本部)で設置され、法の趣旨に沿った円滑な運用がなされているものと考えている。
 同委員会の委員の半数は、消防職員の推薦に基づき指名されることになっており、その結果、2000年3月末現在で、委員の9割近くを管理職以外の一般の職員が占めている。
 また、同委員会は、1998年度及び1999年度において約10,500件に及ぶ勤務条件等に関する意見について審議し、そのうち約4割の案件については実施が適当であるとされた。その結果、資格取得のための助成制度、分煙対策の実施、休憩室の設置、難燃性作業衣の導入等の改善が進められており、こうした実態からも消防職員委員会は消防職員の勤務条件改善のために十分機能しているものと考えている。
 政府としては、今後とも、労働団体、消防本部等関係機関との連携を図りつつ、この制度が円滑に運用され定着していくよう努めてまいる所存である。

 次に、公務員のストライキの禁止についてであるが、日本政府は、これまで繰り返し述べてきたように、公務におけるストライキに対し、最高裁により繰り返し合憲と判断された法律に基づいて適正に制裁を行うことは法治国家として当然のことと考えており、ストライキを理由とする制裁についての、ILOの従来からの見解を十分に認識し、法律を適正に適用してきたところである。今後ともその努力を続けていく所存であるとともに、今次の条約勧告適用総会委員会が次回報告において情報提供を要請していることにもかんがみ、可能な限り適当な情報を提供してまいりたい。
 最後に最近の日本の公務員制度をめぐる新しい動きについて若干申し述べる。現在、政府は、国民から厳しい批判を受けている公務員の縦割り意識、組織への安住、前例主義、サービス意識の欠如といった行動様式を改め、専門家集団としての誇りと使命感をもって公務員が活躍することができるようにするため、昨年12月に閣議決定された「行政改革大綱」を受けて、公務員制度改革を行うことを検討している。そのため、平成13年3月27日に政府の担当部局が公表した「公務員制度改革の大枠」では、能力、業績等が的確に反映される新たな給与体系の構築、能力本位で適材適所の任用の実現、公正で納得性の高い新たな人事評価システムの整備等の方向性を打ち出したところである。
 いずれにしても、現時点では改革の内容が国内においても固まっていないというのが現状であり、日本政府としては、この件についてILOに対し具体的な情報提供やコメントを現時点においては行える状況にないが、今後、改革の進展状況については、ILOに対し適宜情報を提供したいと考えている。

資料2.日本・労働側の政府批判とILOへの要請

 私は、二つのことを申し述べたいと思います。一つは、政府の主張に対する反論であります。もう一つは、現に起こりつつある日本政府による重大なILO条約違反についてであります。
 最初に、これまで依然として続いているILO87号条約の基本原則を踏みにじるいくつかの問題を例示します。すなわち、@管理職の範囲の拡大、A労働条件等の決定過程への労働組合の参加、B自由な団結権を制約する職員団体登録制度、C労働基本権否定の代償処置の不十分さ、などであります。
 しかし、私は二つの問題を取り上げたいと思います。消防職員の団結権の否定の問題、そして公務員労働者に対する全面的、一律的なストライキ権の禁止についてであります。
 1965年に日本政府がILO87号条約を批准して以来、36年が経過しましたが、いまなお、消防職員の団結権は否定されたままであります。
1994年のILO一般調査では、日本は、未だに消防職員の団結権が否定され続けている唯一の国となっています。
 1995年の条約勧告適用委員会で、日本政府は労働側との申し合わせに基づいて「消防職員委員会制度」の設立を明らかにいたしました。
しかしながら、私たちはこれは日本の消防職員の団結権獲得過程の移行手段であると考えています。日本の消防職員が団結権を否定されているという事実は変わっていません。
 日本では、どの公務員労働者も一人としてストライキ権を持っている労働者はいないということをみなさんに知っていただきたいと思います。それが、「全面的、全面的なストライキ権の禁止」ということであります。
 ILOは公務サービスでのストライキ権の禁止は「不可欠業務に従事する職員」と「国家の名における公権力行使の公務員」に特に限定されるべきであるとの見解であります。
 しかしながら、日本政府は独自の不可欠業務の定義を創出することによってストライキ権制約の対象範囲を拡大してきました。同時に、政府は国家の名において公権力を行使する人々を全ての公務員と見なしています。従って、このことが、「全面的、全面的なストライキ権の禁止」ということであります。
 このことが重大なILO87号条約違反であると同時に、専門家委員会の解釈と勧告にも違反していると言うことであります。
もし、日本政府が専門家委員会の勧告を尊重するならば、速やかにこれらの問題を解決すべく具体的な措置をとるべきであります。
 最後に、現在進行中の政府のILO条約の基本原則に違反している事案について申し上げます。
@日本政府は、2000年12月1日、賃金・労働条件制度の根本的変更を伴う公務員制度改革の基本方針を、労働組合との協議や交渉を一回も行うことなく閣議決定した。
A12月19日、総理大臣を長とする「行革推進本部」を発足させ、担当大臣として前総理大臣橋本氏を任命した。
B橋本特命大臣は、「3月末までに大枠、6月末までに基本設計、秋以降法案策定作業を経て2002年1月の通常国会で新公務員法の制定をめざす」とするスケジュールを決定し公表した。
C推進本部は、橋本大臣の指示したスケジュールに従って3月27日、「公務員制度改革の大枠」を確認し、公表した。
 この「大枠」は組合との交渉・協議は一回もなされず、使用者である政府によって一方的に決められたものであります。

 これは、ILO条約の基本原則に対する違反以外の何者でもないと言わざるを得ません。
 政府は、スケジュール通り、「大枠」に基づいて「基本設計」のとりまとめを急いでいますが、今日に至っても賃金・労働条件制度に関する交渉は一回も行われていません。政府は、組合側の「ILO条約を遵守し、交渉に基づいて基本設計をとりまとめるべきである」との要求を拒否し続けているだけでなく、基本設計を6月末までに完成させようとしています。
 私たちは再度、この場で日本政府は、私たち労働組合に対するこのような姿勢を改め、ILOの基本原則を遵守するよう要求します。

 私は再度、日本政府に要求します。
 もし、日本政府がILO条約を遵守する立場を保持するのならば、次のようにその立場を、公式に明らかにすべきであります。
 一つは、現在取り組んでいる公務員制度改革において、今日までのILOの指摘を真摯に受け止め、ILO基準の達成、その実現のために最大限努力すること。
 二つには、労使交渉に応じ、誠実に協議を尽くし、合意に努めること。
 三つに、これまで閣議決定された内容、3月27日に公表された「大枠」は、今後の交渉を一切制約するものではないこと。
 以上であります。

 最後に、私たちは、当委員会が今回提起した諸課題を今後も注視し続けることを要請し、発言を終わります。

資料3.日本政府の反論:基本的立場の表明

 議長、日本政府を代表して、先ほどの労働側からの発言に対し、我々の基本的立場を説明する。

 消防職員の団結権問題について、労働側委員は、1994年のILO総合調査の記述を引用しているが、これは、同調査が消防職員の団結権について言及するに際して、我が国が例示として言及されたものにすぎないことを、まず、指摘しておきたい。
 消防職員委員会は、自治省、消防庁及び自治労は精力的に協議を重ねた結果、国民的コンセンサスの得られる解決策として導入された。
 この制度は、消防職員が現に勤務する各消防本部において、消防職員の参加を得て、勤務条件等の改善を行い、また、個別の勤務条件等に関する問題を処理するものである。
 職員委員会については、冒頭に述べたとおりの成果をあげているものであり、今後とも、労働団体、消防本部等関係機関と連携を図りつつ、この制度が円滑に運用され、定着していくよう努めてまいる所存である。
 我が国の消防職員の団結権問題に関する日本政府の基本的見解は、従来からの政府の年次報告等で述べてきたとおりであり、87号条約上の問題はないと考えている。
 公務員の労働基本権については、その地位の特殊性と職務の公共性にかんがみ、国民全体の共同利益の保障という見地から、一定の制約のもとにおかれているところである。
 一方、公務員も勤労者であり、その生存権保障の見地から、人事院勧告制度等の代償措置が講じられているところである。
 公務員のストライキ権禁止に関するILOの見解は十分認識しているが、公務員の争議行為制約の範囲等については、各国の歴史的背景や公務員労使関係の状況等諸般の事情を考慮して決められるべきものであると考える。
 公務員制度改革についてであるが、2000年12月の閣議決定は公務員制度について改革の内容を大まかに示した性格のものであり、本年3月に公表された「公務員制度改革の大枠」は、この閣議決定を受けて新たな制度について政府部内の検討の方針を示したものである。このような性格上、閣議決定や「大枠」は、職員団体に事前に提示して協議を行っていくような性格のものではなかったと認識しているが、今後においては、職員団体をはじめとする関係者と誠実に交渉・協議しつつ、制度の内容について検討を行ってまいりたい。
 なお、閣議決定、「公務員制度改革の大枠」ともに制度の具体的な内容を決定しているものではないことから、今後の交渉・協議を制約するものではなく、制度の具体的な内容については今後職員団体をはじめとする関係者と交渉・協議していく中で順次決まっていくものであると考えている。
 また、6月末に取りまとめることとしている「基本設計」も制度の具体的な内容を決定するものではなく、基本設計を示した後も職員団体をはじめとする関係者と誠実に交渉・協議してまいりたい。
 もとより、日本政府はILOがこれまで示してきた見解を十分認識しており、日本における改革の状況についてはILOに対し適宜情報提供を行っていく所存である。

資料4.連合・連合官公部門の記者会見参考資料

日本の87号条約に関する適用状況の個別審査を終えて
〜ILOが交渉・協議・合意に基づく公務員制度改革と国際労働基準の実現を強く求める〜

2001年6月12日
日本労働組合総連合会


1,本日(12日)午後5時45分から、条約勧告適用総会委員会で日本の公務員の労働関係に関する87号条約の適用状況が審議された。

2,この中で日本の労働代表(井ノ口委員)は、別紙1<資料2参照>の通り述べた。その要旨は次の通り。
(1)日本の公務員の国内法制が87号条約に違反している点、消防職員の団結権が否定されたまま今日まで継続している点を指摘し、日本政府が専門家委員会の解釈と勧告を尊重して違反状況を解消するために、早急に具体的措置をとることを求めた。
(2)また、今回の公務員制度改革に関しても、12月の閣議決定や大枠が一回も関係組合との交渉・協議なく決定・発表されたこと、6月末の基本設計についても賃金・労働条件に関する交渉が行われず一方的に決定されようとしていること、などをILO条約の基本原則に違反していると指摘し、日本政府に対して次の3つの事項について明確な見解を示すよう求めた。
 ア、いま進められている公務員制度改革で、現行の公務員法制の違反状況の解消も含め、ILO基準の実現に最大限努力すること。
 イ、誠実な交渉・協議、合意に基づいて公務員制度改革の成案を決定すること。
 ウ、これまでの閣議決定や大枠は、今後の交渉を一切制約しないこと。

3,各国労働側代表も発言し、日本政府を強く批判した。

4,これに対して日本政府は別紙2<資料3参照>の通り見解を述べた。
 連合および連合官公部門連絡会は、この見解は日本政府が我々に対して次の点を正式に約束したものとして受け止める。
 ア、閣議決定や大枠は、単なる政府の検討の方向を示したものであり、公務員制度改革の具体的内容を決定したものではないこと。
 イ、従ってそれらの内容は、今後の交渉・協議を制約するものではないこと。制度の具体的内容は関係職員団体との交渉・協議で決定していくこと。
 ウ、6月末の基本設計も制度の具体的内容を決定するものではなく、基本設計後も関係職員団体と誠意ある交渉・協議を行っていくこと。
 エ、日本政府はILOがこれまで示してきた国際基準や見解を充分認識し、ILOには今後も公務員制度改革の状況を適宜情報提供していくこと。

5,連合および連合官公部門連絡会は、日本政府が関係職員団体との誠意ある交渉・協議を通じて公務員制度改革(とくに賃金・労働条件事項)の具体的内容を決定していくとの見解を表明したことを重く受け止める。
 今日までの経過や本日の条約勧告適用総会委員会の場での審議の状況をふまえ日本政府は、関係職員団体との誠意ある交渉・協議のうえ合意に基づいて、基本設計を確定していくべきであると考える。

6,我々は、ILOが日本の公務員の労働関係の87号条約の適用状況や公務員制度改革を巡る違反状況を解消し、国際労働基準に沿った公務員制度改革の実現を求めていることをきわめて重く受け止め、引き続き国内において公務員の労働基本権の全面的確立と公務員制度の抜本改革に向けて全力で取り組むことを決意する。

以上