みんなの力で、労働基本権の確立と民主的な公務員制度改革を実現しよう

労働基本権確立・公務員制度改革

対策本部ニュース

No.95 2002年6月12日

連合官公部門連絡会


ILO・条約勧告適用委員会で日本案件を審査
労働側は「労働基本権制約」を批判、「大綱」の撤回求める
−各国労働側も日本政府を厳しく追及−

 ILOの条約勧告適用委員会は、6月11日午前11時50分(現地時間)から98号条約の適用状況に関して日本案件の個別審査を行った。審査は昼食休憩を挟んで15時30分まで実質1時間30分にわたって行われた。
 冒頭、日本政府を代表して厚生労働省の長谷川総括審議官が冒頭陳述を行い、公務員制度改革について現状を説明し、釈明した。そのなかで、労働基本権の制約を現行のままとした理由についてのべた。また、昨年のILO総会で日本政府が約束した「職員団体との誠実な交渉・協議」について、「91回行った」と回数を披露して「誠実さ」をアピールした。政府側の陳述は、これまでの主張の繰り返しにとどまり、ILO条約を遵守する姿勢を示さない不誠実な態度に終始したものであった。【資料1】
 これに対し、労働側スポークスパーソンのコートベック氏と使用者側スポークスパーソンのビス・キルヘン氏が意見表明した。
 その後、労働側を代表して連合の中嶋国際局長が意見表明した。このなかで、日本政府が閣議決定した「公務員制度改革大綱」で「公務員の労働基本権の制約を現行のまま維持する」とした点をとりあげ、「幾多の結社の自由委員会、専門家委員会および当委員会の見解で明らかにされた深刻な条約違反を放置している」と厳しく批判した。また、労働基本権の扱いに関する政府方針を労働組合に提示したのが大綱決定の1週間前であったことなどを指摘し、日本政府のいう「誠実な交渉・協議」の実態を示して反論した。さらに、「制度設計の権能など使用者側の権限強化と人事院の機能の形骸化」の問題について発言、「一方で重大な労働組合権の制約を解除せずに維持し、他方で代償機能を大幅に縮小することは容認できない」とのべ、大綱の撤回を強く求めた。【資料2】
 会場から各国の労働側代表(アメリカ・韓国・ドイツ・パキスタン・フランス・インド・オーストラリア)が発言し、いずれも日本政府が進めている公務員制度改革の問題点を鋭く指摘した。
 こうした労働側の追及に対し、日本政府によるまとめの反論が行われ、これまでの主張が繰り返された。【資料3】
 委員会は、最後に労働側・使用者側双方のスポークスパーソンによるまとめの発言が行われ、議長集約となった。なお、議長集約については、現在、翻訳中で確定次第、別途報告する。

 対策本部は、この議長集約が確定次第、民主党、社民党等を通じて国会で日本政府を追及する予定。また、引き続きILO対策を強め、11月の結社の自由委員会の審議で、提訴に対する有利な勧告を引き出すべく、全力をあげて取り組みを進めることにしている。


【資料1】 日本政府の冒頭陳述

 議長、日本政府を代表して、昨年の98号条約に係る条約勧告適用専門家委員会のオブザベーションに関連し、我々の基本的立場を説明する。

 日本政府は、従来より国際労働基準を尊重し、特に批准した条約についてはその適用について誠実に対応してきたところである。労働基本権についても同様に誠実に対応してきたところである。公務員の労働基本権の制約については日本政府の考えはこれまで累次の政府報告及び総会の場において述べてきたことから、この場では説明を繰り返さないこととし、公務員制度改革について、前回の98号条約に係る政府報告から進展があったため、現在の状況について説明する。

 まず、現在行われている公務員制度改革のこれまでの経緯についてであるが、昨年の総会でも申し上げたように、政府は行政改革の一環として、公務員が持てる能力を最大限発揮し多様化する行政のニーズに応えられるようにするために公務員制度改革を進めており、2000年12月には「行政改革大綱」を閣議決定し、現在はそれに基づき必要な作業を行っているところである。
 昨年の総会以後政府は、その都度職員団体と誠実に交渉・協議を行いながら、2001年6月29日に「公務員制度改革の基本設計」を政府の行政改革推進本部で決定し、12月25日には「公務員制度改革大綱」を閣議決定したところである。
 「公務員制度改革大綱」においては、
 ・能力・業績を適切に反映する新人事制度の構築
 ・民間からの人材の確保をはじめとする多様な人材の確保
 ・国民からの批判が大きい再就職について適切なルールの確立
等を内容とする公務員制度改革を行うこととし、2003年中に、国会に国家公務員法の改正案を提出する等の方針を策定したところである。

 今回の公務員制度改革大綱においては、「公務の安定的・継続的な運営の確保の観点、国民生活へ与える影響の観点等を総合的に勘案し、公務員の労働基本権の制約については、今後もこれに代わる相応の措置を確保しつつ、現行の制約を維持することとする」とした。また、「人事院は、給与等の勤務条件の設定について引き続き関与する」ともされているなど、労働基本権制約の下で代償機能が確保されるよう措置することとしている。
 公務員の労働基本権の取扱いについては、政府もかねてより重要と認識しており、今回の公務員制度改革においても、公務員制度改革大綱を閣議決定する過程の中でその取扱いについて検討してきたところであるが、労働基本権の制約を変更するということには至らなかった。
 現行の労働基本権制約の下においても、人事院勧告制度等をはじめとする人事院の代償機能はこれまでもlLOの原則を踏まえて適切に運用されてきており、公務員の勤務条件は人事院の調査・勧告に基づき民間と同様の水準となっているなど、日本の公務員の権利は十分に保護されている。

 したがって、今回の改革においても、人事院勧告制度をはじめとする人事院の代償機能を維持することにより、労働基本権の制約の代償を確保して行くつもりである。
 労働基本権についてのlLOの見解は理解しているところであるが、公務員の労働基本権の問題は、各国の歴史的、社会的背景を踏まえて決定されるべき問題であり、我が国社会の中の公務員の地位の特殊性などを考慮に入れると、その取扱いについては慎重にならざるを得ないことから、今回の改革においては労働基本権の制約を現行のままとする結論に至ったということについてご理解いただきたい。
 当然ながら、これらの労働基本権の制約に伴う代償措置は引き続き、十分確保することとなっており、今後ともそれらの機能が十分に機能するように、lLOの原則を踏まえた適切な運用を図っていくつもりである。

 政府は昨年のILO総会において「引き続き職員団体をはじめとする関係者と誠実に交渉・協議する」と発言したとおり職員団体とは誠実に交渉・協議しており、2001年1月6日に内閣官房に行政改革推進事務局が設置されてから、現在まで91回の交渉・協議を行ってきたところである。
 現在は公務員制度改革大綱を受けて法制化や制度の詳細設計等を行っているところであるが、制度設計の過程においても職員団体と誠実に交渉・協議を行っているところであり、今後とも引き続き誠実に交渉・協議を行っていくつもりである。


【資料2】 日本・労働側の政府批判

 議長、発言の機会を与えていただきありがとうございます。
 私は、日本の労働組合とりわけ官公部門労働組合を代表して、議論に参加します。
 日本の官公部門労働者の労働組合権問題は、この委員会において幾多の議論が行われてきました。にもかかわらず、日本政府の不誠実な対応によって一向に問題が解決せず、また今年も個別審査の対象にせざるを得なかったことを非常に残念に思います。
 私は、冒頭、今回の審査によって、問題の根本的な解決がもたらされるよう、日本政府の誠実な対応を求めておきます。
 さて、昨年12月25日、日本政府は、閣議で公務員制度改革に関する基本である「大綱」を決定しました。この決定の中に、公務員の労働基本権の制約は現行のまま維持することが含まれています。このことは、1965年のドライヤー勧告をはじめ幾多の結社の自由委員会、専門家委員会および当委員会の見解で明らかな団結権、団体交渉権、ストライキ権のすべてに亘った広範にして深刻な条約違反をそのまま放置することを意味します。これは明らかにILOへの挑戦であり冒涜ですらあります。われわれは、政府が現在進めている公務員制度改革は手続、内容ともに到底受け入れることが出来ません。
 この12月25日の閣議決定は、関係労働組合との労働組合権に関する交渉が一切なされない一方的で強権的なものでした。政府が労働基本権の制約を維持するとの方針を組合側に最初に提示したのは閣議決定のわずか1週間前の12月18日でした。われわれは「閣議決定を延期し、交渉に応ぜよ」と要求しましたが、全く顧みられず閣議決定は強行されてしまいました。これは結論の一方的通告に過ぎません。これが日本政府のいう「誠実な交渉・協議」の実態です。昨年、本委員会で日本政府代表は「公務員制度改革に当たっては誠実な交渉・協議に基づいて成案を得る」と表明しましたが、この約束は完全に反故にされました。ここにも端的に日本政府のILO軽視の姿勢が如実に現れています。
 第2に、これまで結社の自由委員会236次報告などで指摘されてきた人事院の代償機能の欠陥・不十分さを更に悪くすることも「大綱」には含まれています。一方で重大な労働組合権の制約を解除せずに維持し、他方で代償機能を大幅に縮小することは、われわれを無権利状態に置くに等しく絶対に容認できることではありません。代償機関として人事院は、主に4つの機能をもっています。1つは、賃金・労働条件にかかる制度設計の権能、2つめは、勤務評定の根本基準をさだめる権能、3つめは、賃金・労働条件改定に関する勧告の権能、そして4つめは、救済制度に関する権能、であります。「大綱」では、このうち3と4の権能のみを人事院に残し、他の権能は使用者たる政府が握るということが明らかです。度重なるILOの指摘を無視し、さらに悪くする企ては許しがたいことです。
 第3に、重視すべきことは、日本の公務員の労働組合権侵害、ILO条約違反は、現に進行しているということです。政府は行政権限を行使し、これまでの違反状況を更に悪化させる制度設計を関係労働組合との一切の交渉を抜きにして強行しているのです。政府は、関係法律案を来年1月から開催される国会に上程します。法律が制定されるならば公務員の労働組合権は事実上否定されることとなります。
 日本政府に、ILO条約遵守、労働組合権尊重の姿勢があるならば、直ちに「大綱」を白紙撤回し、日本の公務員制度をILO条約に適合したものに改革するために、われわれとの誠実な交渉を促進すべきです。日本政府代表の誠実にして明確かつ具体的な回答を求めます。 ありがとうございました。


【資料3】 日本政府の反論

 議長、先ほどの労働側からの発言を受けて、日本政府を代表し、改めて我々の立場を説明する。
 現在進められている公務員制度改革は、わが国において昨今国民から公務員に対し厳しい目が向けられている中、公務員がもてる能力を最大限発揮し多様化する行政ニーズに応えられるようにすることを目的としたものである。
 この目的の下、従来の人事制度を変更することを予定しているが、公務員の労働基本権の取り扱いについては、公務員制度改革大綱を閣議決定する過程の中で、ILO見解にも十分配慮しつつ検討した結果、これを変更するという結論には至らなかった。したがって労働基本権の制約の代償措置も今後とも十分確保し、これらが十分に機能するように、ILO諸原則を踏まえた適切な運用を図っていくつもりである。
 現在は、公務員制度改革大綱を受けて法制化や制度の詳細設計等を行っているところであり、わが国政府は、ILOの見解を十分認識しており、今後とも職員団体と誠実に交渉・協議を行っていく所存である。

以上