みんなの力で労働基本権確立と民主的公務員制度改革を実現しよう

労働基本権確立・公務員制度改革

対策本部ニュース

No.129 2003年2月10日

連合官公部門連絡会


連合・連合官公部門が2.7中央集会実施、ILO現地調査の3党議員も決意表明
ヤマ場にむけ闘争宣言、全国3万カ所職場集会の成功へ意思統一

 2月7日、連合及び連合官公部門連絡会は、「透明で民主的な公務員制度改革を求める2.7中央集会」を開催した。政府が組合側との交渉・協議も行わないまま、先のILO勧告も無視して、「大綱」に基づく国公法等の改正法案の閣議決定を強行する構えをみせていることから、ILO勧告の持つ意義を確認し、今後の闘争強化に向けた取り組みの意思統一をはかるため、持たれたもの。昨年末のILO合同調査団に参加した7名の民主・・自由・社民3野党国会議員も駆けつけ闘う決意を述べた。
 中央集会は、15時から社会文化会館で開かれ、連合民間の仲間を含めて700人が参加した。
 「これから最大の攻防局面に入る。今集会で情勢を的確に分析して、共通認識を持とう。」集会は、宮入連合官公部門「対策本部」副事務局長のこうした開会挨拶で始まった。進行役の議長には、山田国税労組委員長が就き、草野連合事務局長が主催者を代表して挨拶した。
 草野事務局長は、まず、連合会長を本部長とする「公務員制度等改革対策本部」を発足させ、連合全体で取り組む態勢を築いたことを報告。ついで、政府がILO勧告を「中間報告」として無視している姿勢を強く批判し、「民主的で開かれた公務員制度改革と労働基本権の確立のため、3野党とともに連合挙げて、全力で最期まで頑張りたい」と決意を明らかにした。

【ILO調査団の議員挨拶】
 つづいて、3野党・連合ILO調査団の各党議員から、調査結果の感想を含めて次のような挨拶を受けた。
◆島  聡・衆議院議員(民主党)政府の言うことは完全に口実に過ぎない。連合の掲げる公務員制度改革が必要という結論を、民主党としてILOから持ち帰った。日本こそ世界の「グローバル・スタンダード」から立ち遅れている。ILO基準は非常に新鮮だった。日本が他国の労働基本権確立への障害になってはならない、との意を強くした。
◆池口修次・参議院議員(民主党)一番強い印象は、日本政府にすれば厳しいILO報告・勧告だろうが、ILOにすれば何ということもない、当然の話だということだ。これ(329次報告)は世界共通の原則。日本政府は口を開けば「グローバル・スタンダード」と言うが、これを実施しないで、何が「グローバル・スタンダード」なのだろうか。
◆中塚一宏・衆議院議員(自由党)ILO報告をもとに、衆院予算委員会で政府追及の口火をきった。反響は大変だった。公務員に労働基本権を確立することは当たり前の政策だ。政労使がそれぞれ自立して、きちんとした話し合いで物事を解決していく。この立場から政府の公務員制度改革案には反対し、皆さんとともに取り組んでいく決意だ。
◆大江康弘・参議院議員(自由党)ILO調査に出かけて、ほんとうに恥ずかしい思いを経験した。日本の“常識”は世界の非常識であることが、今回、明確になったと思う。野党はさらに結束して、政府・与党を糾し、政権を変えていきたい。山本団長のもとに今後も政府を追及、労働基本権確立へ頑張る。
◆又市征治・参議院議員(社民党)ILOはこの40年間、日本政府の態度に我慢を重ねてきた。今回、業を煮やしたのだと思う。「ILO勧告を放置していいのか、関係者との話合いはいつ始めるのか」と政府を追及したが、「まだ中間報告」の段階だと逃げる。憲法には自由と権利の保障規定がある。私たち国民もしっかりと考えていく必要がある。
◆日森文尋・参議院議員(社民党)予算委員会で片山総務大臣は、(329次報告を)「中間報告だ」と答弁し、制度改革は国内問題であり、国内事情を今後も理解してもらうとの態度だ。政府の言い分は全部否定されたのに、同じ答弁を繰り返している。実に許しがたい。この機を措いて、公務員制度改革はできないと思う。今後も厳しく追及する。
◆山元 勉・衆議院議員(民主党)団長として調査に参加したが、恥ずかしい思いに駆られている。日本は世界の先進国、第2の「経済大国」と言えるのか。アジアのリーダーたりえない。OECD諸国で消防職員の団結権も保障していないのは日本だけだ。しかも、日本はこの40年間、ILO結社の自由原則を守っていないと言われた。予算委などで政府を厳しく追及する。いま3党全体で報告集会を開く準備をしている。

 ついで、連合官公部門の招待で初めて来日したチャ・ボンチュン韓国公務労組(KGEU)委員長が、4名の代表団を代表して集会への連帯挨拶をおこなった。
 チャ委員長は、「日本の公務員制度、労働運動が韓国の制度、労働運動に大きく影響し、運命共同体の関係にある」「生死、苦楽を共にする同志として集会に参加したい」と表明。韓国公務労組を結成しようとした罪で、自身二度逮捕され3ヵ月間の獄中生活、また委員長就任後も指名手配され、各地を転々としながら「籠城闘争」をしてきた体験を報告しながら、「労働組合は闘いこそがいのちであり、ひるむことなく公務労組を結成し労働基本権を闘い取り、世界の公務労働組合の模範になれるようにしたい」「本集会が連帯と交流のスタートになればと願っている」と訴え、会場からは熱烈な連帯の拍手が送られた。

【ILO報告・勧告の意義の報告】
 中嶋連合総合国際局長が「ILO結社の自由委員会報告・勧告の意義」について報告。「日本の公務員制度は1948年のマッカーサー書簡により超法規的に奪われたことが原型。この回復が課題であり民主的公務員制度改革のバックボーンは労働基本権にある。それは人権は行使することによってはじめて他者の人権も理解できるのであり、公共性、透明性、人権保障の観点にたった安定的な行政サービス供給のためにも不可欠だからだ」との視点に立ちながら、1)ILO「結社の自由委員会」の機構と役割、2)「結論と勧告」の意義と具体的内容、3)日本政府の対応と問題点、「中間報告」の意味、4)今後の取り組みと展望、について報告。
 勧告は日本も含め政労使の三者で確認されたものであり、しかも50年ぶりの制度改正にあたり、この間ILOが30数年来、日本について言い続けてきた内容を再確認し、最終的なものとして勧告されたもの。大綱は現状の制度より後退していると日本政府を批判し、大綱の再検討を求めるとともに、労働基本権の例外なき適用は普遍的な原則であり変更のないことが明言されている。われわれの闘いはアジア地域で労働組合権を適用していく闘いの大きな一歩でもある 公務員制度のもっている意味と報告・勧告が示した国際基準にたって、われわれ自身が公務員制度の法改正をどのようにしていくのか、どう多数派を形成していくのか問われている、と問題提起し、訴えた。

【ILO調査の報告】
 ついで、岩岬連合官公部門「対策本部」事務局次長が「3野党・連合ILO調査の報告」(別紙)を行った。
 調査団の事務局として参加した岩岬次長は、調査結果として次の点を明らかにした。
(1) 勧告の意義と背景
 日本政府は過去のILO見解からみて特段に厳しい、というが、ILO自身は、特段の厳しい内容や新たな視点に基づくものでなく、政労使三者が全会一致で採択したものとしている。
(2) 「中間報告」とした意味
 政府は「中間報告」を盾に、日本の実情について理解を求め、情報提供する、としている。しかし、ILOは、日本の公務員制度改革が進行中であることから、法案提出までに社会的対話で事態の改善を期待したもので、示された「結論」や「勧告」が「中間的」なものでなく、その内容が変わることはない、と言明した。
(3) 結社の自由の原則の適用
 日本政府は、労働基本権のあり方について「その国の歴史的・社会的実情を認めるべき」と主張。これに対しILOは、「結社の自由の原則は一律に適用されるべきで、制度改革を機に、速やかに、結社の自由の原則を徹底する考えにたった行動を起こす時期である」との見解を示した。 
(4) 公務員制度改革大綱の見直しを求めた意味合い
 日本政府は、「政策決定は国内問題で、大綱再検討の見解は不適当」としている。この点について、ILOは、「日本は87、98号条約を批准しており、条約に書かれた結社の自由の原則を遵守する義務がある。閣議決定といえども条約に適合か否かを検証し勧告するのは、委員会の任務」としている。
(5) ILO勧告の効力と日本政府が無視した場合の可能なアクション
 ILOは、ニュージーランドの例をあげ、「勧告に強制力はないが、問題解決まで同じ勧告を行い続ける。さらに労働側がより上位の厳しい勧告を求める訴えー実情調査委員会等の設置ーを起こすことも可能」との見解を示している。

【基調提起】
山本連合官公部門「対策本部」事務局長が、当面の取り組みを中心に「基調提起」を行った。最初に、集会に民間産別の仲間が参加していることに謝辞をのべ、次のように提起し、職場からの一層の取組み強化を訴えた。
(1) 政府は、1千万署名に示された世論や、ILOからの勧告を無視して、「大綱」に基づき、3月中旬にも、国公法・地公法等の改正法案を国会に提出する準備を進めている。
(2) このため、運動は最大のヤマ場、決戦時期を迎えている。2月14日から3月11日までの間に、連合官公部門構成組織の全国3万カ所の職場で全員参加の集会を提起したが、この職場集会をやり遂げ、改正法案の一方的な閣議決定に反対する職場決議を採択して、小泉総理に提出しよう。
(3) 国民世論に訴えるため、地方連合会の協力のもと、3月下旬から4月上旬にかけて、全国から、統一キャンペーン行動に取り組む。そのために連合とともに準備を進めている。
(4) 3月中に政労会見を実現させ、ILO勧告に基づく公務員制度改革を求めた要求の回答を引きだしていく。
(5) 民主・自由・社民3野党は、政府の改正法案に反対し、共同の対案を作成し、政府と対決していく。3野党の結束は堅く、院内の共闘態勢は整った。近々にも、3野党によるILO調査団報告集会も開催される。
(6) 大綱に基づく公務員制度改革が進めば、公務員労働者は、全くの無権利状態に追いやれれてしまうことをキモに命じ、職場から闘いを強め、全ての組合員が参加する3万カ所職場集会を成功させよう。

 最後に、栗城自治労女性部長が「ILO勧告の全面実施・労働基本権の確立を求めるアピール(案)」(別紙)を提案、これを採択し、丸山連合官公部門「対策本部」本部長の音頭で、団結がんばろうを三唱して2時間に及ぶ集会を締め括った。


(別紙)
ILO勧告の全面実施・労働基本権の確立を求めるアピール


 昨年11月、ILO理事会が採択した日本政府への勧告は、政府の推し進める公務員制度改革が、国際労働基準に反していることを国内外に明らかにした。
 私たちは、政府がILO勧告を全面的に受け入れ、3月開催の次期ILO理事会までに、公務員労働者の労働基本権を確立する方向で改革案をとりまとめること、そして、そのための労使協議の場を設定するよう、現在、政府に強く要求している。
 しかし、政府は、「中間報告」との口実でILO勧告を無視し、組合との交渉・協議も行わないまま、「大綱」に基づく国家公務員法・地方公務員法改正法案を今通常国会に提出するため、着々と準備を進め、3月にも改正法案の閣議決定を強行する構えを示している。
 ILOからの勧告と国民の批判を無視し、しかも交渉・協議を抜きに取りまとめようとしている改正法案を絶対に認めることはできない。
 連合は、ILO勧告の実現を目指し、連合会長を本部長とする「公務員制度等改革対策本部」を発足させた。連合官公部門は、2月4日の代表者会議で、「ILO勧告全面実施・労働基本権確立」に向けた闘争方針を決定した。国会では、民主・自由・社民の3野党は連携を強め、共同プロジ工クトを発足させ、政府の姿勢を厳しく追及している。
 運動は、いま、正念場を迎えている。私たちは、交渉・協議を抜きにした改正法案の今国会への提出に反対するとともに、春季生活闘争のなかで、政労会見を実現させ、要求の受け入れを政府に強く求める。
 このため、本日の中央集会を契機に次の取り組みに全力をあげる。
一、地方連合会の協力のもと、3月末をメドに全国から、「天下り禁止、キャリア制度廃止、ILO勧告の全面実施」のキャンペーン活動を実施する。
二、3野党との連携を強化し、野党共同対案を今国会に提出する準備を開始する。
三、ILO勧告を無視し続ける日本政府の対応を国際的に糾弾するため、3月のILO理事会、6月のILO総会に向け、情報提供と現地対策を行う。
四、連合官公部門構成組織の全職場・分会で集会を開催し、一方的な改正法案の閣議決定に反対する決議を採択する。
 私たちは、ILO勧告を踏まえた労働基本権の確立と、1千万余の署名に託された「キャリア制度廃止・天下り禁止など信頼できる公務員制度への改革」を実現するため、総力をあげる決意をここに表明し、多くの国民にこの取り組みへの協力を訴える。

 2003年2月7日
連合・連合官公部門連絡会
透明で民主的な公務員制度改革を求める2.7中央集会


(別紙)
3野党・連合ILO調査の報告


T.今回のILO調査の目的と概要

1.はじめに 〜調査にいたる経緯〜

(1) 連合及び連合官公部門連絡会は、政府が2001年12月25日に公務員制度改革大綱(以下、「大綱」)を閣議決定したことを踏まえ、ICFTU(国際自由労連)や関係する国際産業別組織とともに、2002年2月26日、日本政府を相手方とするILO(国際労働機関)結社の自由委員会への提訴をおこなった。この提訴は、大綱が手続き・内容の両面で結社の自由の原則を犯しており、ILO第87、98号両条約に明示されている国際労働基準に沿った公務員制度改革をおこなうよう、日本政府に対してILOが勧告するよう求めたものである。
(2) 2002年2月27日に2177号案件として受理された提訴は、11月7日から開かれた結社の自由委員会で審議され、15日には「第329次報告」としてまとめられ、21日のILO理事会で正式に採択された。
第329次報告の「結論」及び「勧告」の主な特徴は、以下のとおりである。
@ 労働基本権の制約を維持するとした「大綱」の見直しを求めていること。
A ILOとして初めて日本の現行の公務員制度がILO87、98号両条約に違反していると指摘し、政府に対し法改正のための「すべての関係者と全面的で率直かつ有意義な協議」を直ちに実施するよう求めていること。
B 個別の改正事項についても、消防職員への団結権付与や国家の運営に直接関与しない公務員への団体交渉権・スト権の付与など、結社の自由の原則にのっとった具体的な解決の方向を明示していること。
これらに加えて「勧告」は、日本政府に対して法改正の進捗状況の情報提供や国公法・地公法改正法案等のコピーの提供を求め、必要があればILOの技術援助も可能であると指摘しながら、今後も結社の自由委員会として監視・チェックし、引き続き審査する考え方を明確にし、ほぼ提訴側の主張を全面的に受け入れたものとなっている。
 日本の公務員制度についてILOは、これまでも数次にわたる是正勧告を行ってきているが、今回のILOの「結論」と「勧告」は、過去の「勧告」に比しても特段に日本政府に対して厳しい内容のものであり、歴史的にも画期的なものである。
(3) ILO「勧告」を受けた日本政府としての正式見解は示されていない。しかし、21日のILO理事会での日本政府代表の発言や公表された総務省見解は、以下のとおりであり、今回の「勧告」は内容的に見て受け入れがたいものとの考え方を示唆しながら、あくまで「中間報告」との立場をとり、当面、政府としての態度決定を先延ばしする対応をとっている。
@ 条約違反との指摘は、我が国の実情を十分理解した判断とはいえず、承服しがたいものである。
A 公務員制度改革は純粋に国内問題であり、「大綱」の労働基本権制約の維持を再考すべきとしたことは不適切である。
B 今回の「勧告」があくまで「中間報告」との位置づけであることから、今後我が国の実情について正しい理解が得られるようILOに情報提供を行う。
(4) 民主党、自由党、社民党の3野党は、国民本位の行政の実現に向けた公務員制度改革は極めて重要な国政上の課題であるとの認識に立ち、3野党共同してこの問題に対応していくことを確認し、プロジェクトチームを発足させ、連合等と連携しながら対策を強めている。そして、臨時国会等で政府の公務員制度改革大綱の問題点を追及し、政府の改革案の問題点を以下のとおり明らかにしている。
@ 「大綱」は、天下りを容認するなど国民の立場に立った改革案とはほど遠いものであること。
A 労働基本権制約を維持するとした点についても国際労働基準からして極めて問題であること。
 また、政府の改革案に対しては、マスコミ、学会、国民各層から強い批判の声が巻き起こっている。にもかかわらず、行政改革推進事務局は今通常国会中にも国家公務員法・地方公務員法改正法案を国会に提出する予定で、「大綱」に基づく作業を進めている。しかも、その作業は、関係労働組合などとの協議を一切行わず、「密室」の中で一方的に行われている。
 こうしたなかで、現行の公務員制度が条約違反と指摘され、「大綱」の労働基本権制約の決定の見直しを求める勧告がILOから出された意義には大きいものがあり、国際社会の中に占める日本の位置からしてもこの「勧告」は極めて重く受け止めなければならない。3野党と連合は、真に国民の立場に立ち、国際労働基準に適合した公務員制度改革を実現するためにも、政府に対して「大綱」を直ちに見直し、今回のILO勧告を全面的に受け入れた新たな改革案のとりまとめを求めていくこととしている。3野党はこの課題での共同の対応体制をさらに強め、通常国会で本格的な論戦に臨んでいくこととしている。

2.今回のILO調査の目的と概要
(1) 以上の経過を踏まえ、3野党と連合は、共同のILO調査団を組織し、今回の「勧告」の意義や背景、意味内容をつぶさに確認し、国際労働基準に対する共通認識を深め、今後の通常国会での本格的な公務員制度改革議論を進めるための資料を得ることを目的に現地調査を実施した。
(2) 今回のILO調査団は、3野党の公務員制度に関わる共同プロジェクトチームのメンバーを中心に編成され(団長=山元勉衆議院議員)、12月15日から20日にかけて、ICFTUやPSIなどの国際労働組織やILO結社の自由委員会の担当事務局に対する聞き取り調査を実施したほか、ジュネーブ日本政府代表部やOECD日本政府代表部との意見交換を行った。その調査結果は以下のとおりである(調査団のメンバーと日程、面談相手等は「添付資料1」参照)。

U.調査結果の報告

1. 調査事項
 すでに述べたとおり、日本政府は今回の「勧告」が「中間報告」だと位置づけ、この勧告を受け入れるか否かの正式の態度表明を行っていない。「中間報告」を理由にして、当面、態度決定を引き延ばし、最終的にはまたしてもILO「勧告」を無視することが十分考えられる。
 そこで3野党としても今後の通常国会での公務員制度改革をめぐる議論を活性化し、日本政府に対して速やかな態度決定を求めるためには、今回の第329次報告の意義と背景、及び位置づけ等を正確に確認することが必要であった。ILO事務局やICFTU等に対する調査はその点を中心に、次の事項について行われた。
(1) 今回の「勧告」の意義と背景について
(2)「第329次報告」を「中間報告」とした意味合いの確認について
(3) 結社の自由の原則の適用と国内事情への配慮の関係性について
(4)「大綱」の見直しを求めた勧告の意味合いについて
(5) ILO「勧告」の効力と日本政府が勧告を無視して受け入れない場合のILOとして可能なアクションについて

2. 調査結果について
(1)今回の勧告の意義と背景について
 第1点目の調査事項は、今回、初めて日本の公務員制度がILO第87、98号両条約に違反していることを明記し、その法制度の改正を求める勧告が出された意義と背景の確認である。
 今回の「勧告」に対して政府等からは、過去のILOの見解に照らしても特段に厳しいものがある、との受け止め方に対するILO事務局の見解は、以下のとおりであった。
<ILOの見解>
 今回の「勧告」が日本政府に対して特段に厳しい内容のものや新たな視点に基づいて勧告したものであるとは考えておらず、過去の日本の公務員制度に関するコメントの積み上げにたったもの、すなわち結社の自由の原則に沿って日本の案件に対して改めて指摘したにすぎないものであり、政労使三者構成の結社の自由委員会が全会一致で採択した性格のものである。
 ICFTUなどの見解も全く同様であり、日本の公務員制度は1965年のドライヤー委員会報告以来40年間にわたってILOで取り上げられており、今回の「勧告」が特段目新しいことを述べているわけではなく、40年間にわたるILOの「勧告」を無視してきた日本政府にこそ責任がある、との認識に立っている。当然のことながら、ICFTUなどの国際労働組織は、日本政府に対して極めて厳しい姿勢を示している。
 ILOとしては、現在進行中の政府の公務員制度改革を、40年にわたって日本の公務員制度がかかえる諸問題の解決の絶好の機会としてとらえ、過去指摘した点を含め改めて日本の公務員制度を結社の自由の原則に沿ったものに改革することを今回の「勧告」で強く求めたものといえる。
 このように今回の「勧告」が出された意義や背景についてのILOの見解の確認によって、次の点が改めて証明されたものといえよう。
@ 日本の公務員制度がいかに国際労働基準と乖離しているものであるかが明確になったこと。
A 日本政府が度重なるILO「勧告」を無視し、その法制度改正をいかにサボタージュしてきたか、ということが改めて証明されたこと。

(2)「第329次報告」を「中間報告」とした意味合いの確認について
 第2点目の調査事項は、「第329次報告」が「中間報告」とされたことの意味合いの確認である。
 周知の通り日本政府は、今回の勧告が「中間報告であるので、今後、我が国の実情等について正しい理解が得られるよう、理解を求め、情報提供する」として、「勧告」に対する明確な見解表明や態度決定を行っていない。はたして、今回の「勧告」は日本政府がいうような「中間的」な性格のものであったのであろうか。
 この点についてのILO等の見解は、次の通り極めて明確であった。
@ 一般的に結社の自由委員会の報告は、中間報告、今後の事態の進展についての情報提供、最終報告の3種類がある。「第329次報告」を「中間報告」としている意味は、「結社の自由委員会は、政府が2003年中に改正法案を国会提出する予定としており、日本の公務員制度改革はいまだ事態が進行中の課題であると認識している。したがって、政府に対して法案提出までに社会的対話の促進によって事態を改善することを期待し、その結果の報告(情報提供)を日本政府や連合に求めた」からである。したがって、結社の自由委員会はこの案件についての審査をうち切ってはおらず、今後改正法案等についての情報提供が行われ、結社の自由委員会と理事会がそれを審査し最終報告を行うことは考えられる。
A しかしながら第329次報告で示された「結論」と「勧告」は、結社の自由委員会が「11月の審査時点で出そろった論点(提訴文や日本政府の回答)にもとづいて、結社の自由の原則に基づく十分な分析を行ったうえで下した最終的な判断」であり、「結論」や「勧告」はけっして「中間的・暫定的なもの」ではない。
B したがって、日本政府が今後どのように事後的に働きかけようと、十分な実態分析を行い結社の自由の原則に基づいて、いったん出された「勧告」の内容が変わったり、覆されることはない。
 以上のことから明らかなとおり、「中間報告」の意味合いは、事態が進行中であることを踏まえ、社会的対話によって国際労働基準に沿った改革を行い、その結果をILOに報告することを求めたことにあり、けっして日本政府が主張しているように「結論」や「勧告」の内容自体が中間的、暫定的なものではないことは疑う余地はない。
 今回の調査で、日本政府の「中間報告」に対する認識はまったく誤った理解であり、「勧告」に対する態度決定を引き延ばすための意図的な解釈であることが明確になったものといえる。

(3)結社の自由の原則の適用と国内事情への配慮の関係性について
 従来から日本政府は、公務員の労働基本権のあり方についてはその国の歴史的、社会的実情を認めるべきであると主張し、日本の公務員の労働基本権の制約を正当化してきた。また、今回の「勧告」では従来のILOの見解と異なり日本の実情が十分理解、配慮されておらず、なお日本の実情を理解してもらうための努力を続ける、としている。第3点目の調査事項は、この日本政府の主張に果たして根拠や正当性があるのかどうかという点である。
 この点については、「第329次報告」の「結論」部分の中にも述べられているとおり、結社の自由の原則は一律に適用されるべきものであり、それは、国際的に普遍的な原則であるとILOが考えていることが今回の調査でも明確になったものといえる。ILO事務局は、たしかに小さな変更はあるが、日本の公務員制度の40年ぶりの改革という事態を踏まえ、「日本政府の主張は理解しているが、そろそろ、結社の自由の原則を徹底する考え方にたった行動を起こす時期である」との見解を示した。
 従って、日本政府の「国内事情」という主張は、結社の自由の原則を踏み外すものであり、ILOに受け入れられていないことは明確である。この点については、いくら今後日本政府が情報提供し、理解してもらうための努力を行おうとも、全く無駄な努力といわざるをえない。

(4)公務員制度改革大綱の見直しを求めた勧告の意味合いについて
 第4点には、ILO勧告が労働基本権制約政策の継続を決めた公務員制度改革大綱の見直しを求めたことについて、日本政府は、政策決定は純粋に国内問題であり、そうした見解を示すのは不適当としている点についての確認である。
 この点についてもILOの見解は明確であった。つまり、日本政府は87、98号両条約を批准しており、その条約に書かれた結社の自由の原則を遵守することは当然の義務であり、日本の場合のように条約に違反している場合、たとえ閣議決定といえども批准した条約に適合しているかどうかを法的に検証し、勧告するのは、ILO結社の自由委員会の任務であるということである。
 ILO事務局は、この点について「日本政府はILOに示した見解で、明確に現行の制約を変更する意図はないと述べている。その公表された意図は結社の自由の原則に沿っておらず、そうした意図が現実になってしまってからでは遅すぎるので、今回の勧告で再考すべきであると述べた」との見解を示し、これらの点を裏付けた。
 以上のことから、日本政府の「政策決定を行うかどうかは国内問題」という主張は、その決定が結社の自由の原則に違反している場合はILOからみてまったく正当性のないものであるといわざるを得ない。日本政府は、こうした考え方に立って行われた「大綱」見直しの「勧告」を重く受け止めて対応すべきである。

(5)ILO「勧告」の効力と日本政府が「勧告」を無視して受け入れない場合のILOとして可能なアクション等について
 第5点目の調査事項は、日本政府が今回の「勧告」を再び無視して何らの改善措置をとらないことが十分考えられることから、結社の自由委員会「勧告」の効力と、日本政府が「勧告」を受け入れない場合のILOの可能な行動について確認することであった。併せて、今回の「勧告」で、日本政府に対して「技術的支援」を求めることができるとしていることについて、どのようなものが考えられるかについても確認した。その概要は次の通りである。

<日本政府が勧告を無視した場合の対応について>
1) ILO事務局の説明
@ 結社の自由委員会の「勧告」に強制力はないが、問題解決まで同じ「勧告」を行い続ける。ニュージーランドの事例では、10年間対話を繰り返し、結局政府が「勧告」を受け入れた。
 さらに、労働側がより上位の厳しい勧告−実情調査委員会や審査委員会の設置を求めて結社の自由委員会に訴えを起こすこともできる。ただし、その設置の決定を下すのは、あくまで結社の自由委員会、理事会である。
A 条約勧告適用専門家委員会に、法的側面の検討を要請し、専門家委員会が検討することが考えられる。専門家委員会の報告はILO総会で検討される。また、労働側が、条約勧告適用委員会(総会委員会)に申し立て、個別審査することもある(すでに、2001,2002年の総会委員会で2年連続して日本案件は個別審査の対象となっている)。
2) ICFTU等の見解
@ 連合のキャンペーンに対して、国際労働運動全体としての強力な支援を行う。国際労働運動は、すべての国際レベルの会議で日本政府に対して圧力をかける。日本政府は多くの経済的国際機関の重要なメンバーであり、例えばOECDやWTOで日本政府が国際労働基準を遵守していないことについて国際的世論に訴えることが可能である。
A 労働側理事全員の署名を日本政府に送付したり、本年のILO総会でも様々な行動を取ることが可能である。

<技術的支援について>
@ 「勧告」の法的な側面について日本政府がILOに対して書面による質問を行い、ILOが回答を示すという方法が考えられる。日本政府がILOを訪問し、質問することも可能である。
A 日本政府や労働側が要望し、ILOが調査団を派遣することも可能であるが、派遣するには、結社の自由委員会の全会一致の決定と日本政府が受け入れることが条件となる。今回のケースでは、実情調査等ではなく、あくまで支援のためのミッションとしての性格となる。
B 当該政府の反応次第であるが、ダイレクトミッションという方法もある。

 以上のとおり、結社の自由委員会の「勧告」には強制力や罰則等はないものの、日本政府が今回の「勧告」を無視しようとすればするほど、事態が限りなく拡大し、国際問題として波及していくことが明らかとなった。G8やOECDの重要なメンバーである日本が国際労働基準を遵守していないことは、公正な国際競争を求める国際社会からの批判の的となることは明らかである。3野党・連合ILO調査団は、在ジュネーブ日本政府代表部やOECD日本政府代表部を訪問し意見交換した際にも、こうしたILO調査結果を紹介し、日本政府全体として早急に適切な対応を採ることが重要であることを強く要請した。また、ジュネーブ等における国際世論について正しく本省に伝達することも要請した。
 日本が国際社会に重要な役割を占めようとするのであれば、今回のILOの「勧告」を無視し続けることは事柄の性格上もはや許されないことといえよう。日本政府には、もはや今回のILO「勧告」を全面的に受け入れ、国際労働基準に沿った公務員制度改革を行う以外の選択肢はあり得ないものといえる。

以上